「男性に本音を聞いた」というデタラメ その1 ― Allabout「これが男子の本音!~「婚約指輪」僕らはこう考える~」

 

  よくここまでデタラメが書けたものだ。強い怒りを通り越して吐き気を覚えたので、書くことにした。

 

 

 

  男性と女性では考え方がまったく違う中、女性が男性の考え方を推し量るには「男性に直接聞く」のが一番である(逆も同じである)。その意味で、「男性に聞きました」「男子の本音」という記事は本来、女性の助けになる非常に有用なものであるはず。

 

  しかし、そういう形で男性の考えを知ろうとする誠実・真面目な女性を欺いて愚弄するこれらの記事は本当に許しがたい。私は気が長い方だから生きていてここまで思うことは少ないのだが、本当に心から「恥を知れ」と思う。

 

 

 

  今からいくつか取り上げるが、代表例がAllaboutの「これが男子の本音!~「婚約指輪」僕らはこう考える~」である。

 

 

 

  私は、35歳の既婚男性である。私自身は10年前に結婚し、周りの友人たちより結婚が早い方だったので、友人たちから結婚や恋愛について様々な相談を受けることが多かった。そのテーマの1つは婚約指輪に関してである。

 

  婚約指輪について、私自身の考えは以下のようなものである。「婚約の記念として、男性から女性に高価な指輪を贈る意味・理由がわからない。お互いに、婚約記念品としてプレゼントし合うなら、わからないでもない。」

 

  これは全日本人男性の中で私が特別に「婚約指輪に否定的」というわけではない。イメージ、否定的な方から数えて「上位3割」に入るくらいだと思う。上位1割には絶対に入っていない。なぜそう言えるかというと、私は妻が望んだので結局婚約指輪を贈ったからであるが、「意味がわからないので絶対に婚約指輪を贈らない、あるいは婚約者が指輪に固執した場合は破談にする」という男性たちも現に存在する。それら男性が上位1割である。(当然だが、これは信念の問題であって、男性側の収入とは関係がない。私も友人たちも、出そうと思えば100万円の負担は別に重くない。)

 

  これは私がこれまでに相談を受けてきた皮膚感覚で、大規模な統計を取ったわけではないが、男性の割合はおおむね以下のとおりである。

 

・上記のとおり、何があっても婚約指輪を買わない男性 約1割

 

・(私と同じく)婚約指輪の意味がわからないので、どうしても買うのであれば記念品であるべきと考える男性(最終的には譲るかもしれないが、可能な限り記念品としたい男性) 約3割

 

・婚約指輪の意味はわからないが、「婚約したら贈るものなんでしょ?」「そういうものなんだから仕方ないよね」と、婚約指輪を所与のものとしてあきらめている男性(これらの男性は高い指輪を買いたいとは思わない。) 3割

 

・「婚約したら婚約指輪を贈るものだ」と信じている(疑わない)男性(ある程度の金額を出す覚悟がある男性) 2割

 

・相手の女性に喜んでもらうために、婚約指輪にいくらかかっても構わない男性(女性が予算を決めることをストレスに感じない男性) 1割 ←もっとも、私はまだお目にかかったことがない。

 

 

 

  Allaboutの記事には4人の男性が登場するが、1人は「ある程度の金額を出す覚悟がある」2割で、あとの3人ともほぼ下位(つまり婚約指輪に積極的な方から見て上位)1割に入るような人たちである。こんな偶然があるわけない。

 

  私の、そして私の友人たちの多くは、以下のような考え方である。

 

・ 欲しいんだったら、自分で買え。「昔から憧れてたの」「夢だったの」と、100%女性側の都合を持ち出されても知ったことではない、それは我々(男性側)には何の関係もない。

 

・ 男性側が全額出すのであれば、1万円のものでも喜べ。どっちにしたって、お前は1円も負担してないんだから得してるだろ。どうして、「婚約指輪は高いもの」というのが前提なんだよ。

 

・ 「他の女友達と比べたい」「友達はもっといいものをもらった」「愛情は、出してくれるお金で測れると思う」とか言い出す女は、腹が立つとかではなく純粋に人として気持ち悪い。というか、100%自分のエゴのためだけに、これから結婚する相手に「より大きな負担をさせる」ことを申し訳ない(恥ずかしい)と思わない神経はどうなっているんだ。(普通の男は、プレゼントをもらう時に「もうちょっと高いのにして」とねだることなど夢想だにしない。)

 

・ ここが重要なのだが、多くの男性は女性側をできれば喜ばせたいとは思っている。ただし、「どうやって喜んでもらうか」予算も含めその方法は自分で決める。お金を出す側なんだからそんなこと当たり前、人生の基本だろ。それすらわからない奴はまともな大人としてどうなのか。

 

・ 女性側が、「男性側(恋人)のために、愛情を示すために、お金をいくら遣っても構わない」と思っており、実際に金に糸目をつけずに高額なプレゼントなどをしてくれているのであれば、話は一貫する。そうでなければ、自分(女性側)だけに都合のいい、我が儘以外の何ものでもない。

 

 

 

  Allaboutの恥知らずなデタラメ記事は、読んでみると「すべて女性側が望む、女性側の論理」を男性も話していることがわかる。曰く「喜んでくれる顔が見たいから、いくらかかってもいい」、曰く「予算オーバーでもいい、君の好きなの選んで!」、曰く「予算って実はあってないようなものじゃないですか?」 そんなことあるわけない。年収700万で、喜んでもらう顔を見たいためだけに200万の指輪が買えるのか。というか、本当に好きなの選んで予算オーバーする女は人としてどうなんだよ。

 

 

 

  明らかだが、この記事は単なる「婚約指輪マーケティング」である。書き手はジュエリー業界から報酬を得ているのだ。「婚約指輪の意味がわからない・多額のお金をかける価値も理由もわからない」と思っている普通の(過半数を占める)男性に対して、何も知らない純粋な女性がこの記事を示して「ほら、これが男子の本音じゃん! あなたは常識外れなのよ」と説得して「高額な婚約指輪を買わせる」ためのものなのだ。

 

  当然ながら、ジュエリー業界としてはその方が都合がいいわけだ。

 

  だが、私は自分の狭い交際範囲の中だけで、婚約指輪で「(女性から見て)普通の」「(男性から見て)あり得ない、恥知らずな」要求をされたために婚約が解消された例を少なくとも2組知っている。婚約解消にまで至らなくても、あり得ない主張をすることで男性側の女性に対する信頼は大いに傷つけられている。この記事を真に受けると、全体としてはジュエリー業界は儲かって得をするだろうが、個々の女性の婚約また幸福自体が損なわれるリスクがある(個人的には、単に「リスクがある」のでなく「そのリスクはかなり高い」と思う)。

 

  書き手はジュエリー業界からお金を得ているから、このような厚顔無恥なデタラメを――しかも「これが男子の本音」などと――書いた結果として多くのカップルが不幸になっても一向に構わないのだろう。私は、これは読者の女性たちに対する詐欺だと思う。それこそが「恥を知れ」と私が怒りに震える理由である。

 

 

その2は、日経Woman「『重い女』と思われないためにはどうすれば」