裁判官を買収する方法

  これから日本の裁判官を買収する方法を検討するが、なぜそんなことを検討するか、その経緯を記しておく。

  ある友人がいうには、「多くの途上国では、刑事裁判において無罪判決が出ると、『裁判官が買収されているのではないか』という懸念が人々によぎる。日本では決してそんなことはない。裁判官への信頼が高いのは大きな財産だ」とのことだ。

  なるほど、確かに日本で無罪判決が出た時に、「裁判官が買収されたのでは」と思う人間は1人もいない。なぜなら、日本で裁判官を買収するのは少々、というよりものすごく、難しいからである。よって以下、裁判官を買収する方法を真剣に検討することにする。

  まず、担当の裁判官と接触するのがそもそも難しい。あなたが刑事裁判の被告の関係者であれば、裁判官はめったなことでは会ってくれない。法廷でなら会えるが、法廷で(法廷には結構いろんな人がいる)裁判官を買収する勇気がある人は少ない。というか、上記のような途上国でも、さすがに法廷で裁判官を買収するわけではないだろう。

  この時点であきらめてしまいそうになるが、とにかく何らかの工夫を凝らし、あるいは伝手を頼って、担当裁判官と個人的に会えたとしよう。(そうでないと話が進まない。)絶対に話が外に漏れる心配のない、裁判官の執務室に通されたとする。

  あなたが少しでも買収をにおわせるとどうなるか。困ったことになる。裁判官がではなく、あなたがだ。なぜなら、あなたの示唆を聞いた瞬間、裁判官のうち7割くらいは、あなたの申し出の内容を吟味することなく条件反射的に電話するからだ。おおよそ全裁判官のうち5割くらいは守衛を呼び、あなたをつまみ出してもらう。おおよそ全裁判官のうち2割くらいは、懇意にしている検察に電話をかけて来てもらうだろう。(もはや110番ですらない。)

  後者の場合には、あなたはますます困った立場に追いやられる。なぜなら、執務室で裁判官を買収しようとするなどという事件は日本ではあまり例がないので、検察は単に急いでやって来るのでなく、「懇意にしているマスコミに連絡してから」急いでやって来るだろうからだ。あなたが裁判官の執務室で検察官に現行犯逮捕される瞬間を、NHKやらフジテレビやら読売新聞やら時事通信やらのカメラマンが撮影するわけである。なぜならそれが彼らの仕事だからだ。

  こう考えると、裁判官を買収しようという気持ちはかなり萎えるのが普通だ。しかしここでは、あなたがこの上なく勇敢で、担当裁判官が上記7割に入っていない(つまり条件反射で電話をかけない)ことを信じ、裁判官の買収に突き進むと仮定しよう。そして運よく、上記7割でない残り3割の裁判官、これら裁判官は単に「条件反射的に電話をする」ことはない裁判官で、そのうち2割5分くらいは、しばらく考えた上で結局は電話するだろうから、残りの5分(つまり5%)の裁判官にたまたま当たったものとする。なんと幸運なことであろうか。

  その5%の裁判官であっても、ほとんどは「バカなことはやめて、さっさと帰りなさい」とあなたを諭すのがオチだが、ここでは多めに(信じられないほど多めに)見積もって、それら5%の裁判官のモラルが破綻していると仮定する。つまり、彼らは損得勘定に従って、買収されるか否かを決定するとする。

  このような、これから裁判官を買収しようとするあなたにとって夢のような、ほとんどあり得ない仮定を置いたところで、裁判官を買収するのは難しいのである。多くの場合、彼らはまったく金に困っていない。その彼らが、エリート街道を歩いて世間的にも尊敬を受けている彼らが、ばれれば失職するどころか懲役刑をくらうような危険をわざわざ冒す理由が見当たらないのである。モラルを抜きに損得勘定で動いたとしてもこのような結論になる。

  私としては、あなたの担当裁判官が、たまたまモラル的に破たんしており、かつギャンブルにはまって借金まみれであるがゆえに、あなたからの買収の申し出に飛びつくことを、あなたのために祈ってはいる。そうでなければ親愛なるあなたが大変な人生を(壁の中で)送る羽目になる。しかしながら、裁判官を買収しようとするあなたは、極めて望みの薄い、勝てる見込みの少ない賭けをしていると、私はあなたの友人として、あなたに警告せずにはいられない。あなたの友人として、私は次のようにお伝えしよう。やめた方が身のためですよ。

 

  あと、例えば国会議員を通して検察に圧力をかけたりしたら「逆に最優先で捜査される」ように、裁判官に買収を申し出たら、裁判官の心証を害して、あなたに不利な判決が出やすくなるだろう。日本では、検察も裁判官も、あまり甘く見ない方があなたのためである。どちらかというと、彼らはかなり恐ろしい。